研究内容

 

混雑環境下で非平衡ゆらぎが創り出す秩序構造

**尾田君(2016年度修士修了)が筆頭著者の論文が、国際誌Physica D, 336, 39–46 (2016)に出版されました。**

生命体は非平衡ゆらぎにより、自らの生命を創り出し、その活動を維持している。本研究では、「ゆらぎ」と「秩序構造」に着目し、サイズの異なる粒子の集団に外部から振動をあたえるといった実験を行った。その結果、粒子集団が空間的に閉じ込められた環境下で、粒子のサイズに応じて相分離して、閉鎖空間内に局在化することを発見した。空間内の混雑度が低い環境では大きな粒子が空間外部に、混雑度が高い場合には大きな粒子が空間内部に局在する(Fig)。排除体積効果を取り込むことにより並進運動の自由度を求めて、系のエントロピーを理論的に計算した。その結果、実験で得られた粒子の局在条件を理論的に説明することが可能であることを示した。

Fig.1: Schematic representations of the experimental system with bird view in (a) and side view in (b); typical snapshots at 0 and 540 seconds (left panel) and the real-time trajectories of the large sphere (right panel) for two distinct packing fractions η = 0.1(NL = 1 and NS = 29) in (c) and 0.6(NL = 1 and NS = 229) in (d), where dL =10mm, dS =3mm and D = 60mm. The scale bar is10mm. Note that the dotted circles in the trajectory plots indicate the outermost boundary which can be reached by the center of mass of a large sphere within the cylindrical disk.

 

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DNA直流電圧のもとでのプラスチック粒子の公転運動

**直流電圧のもとでのプラスチック粒子の公転運動に関する論文が、国際誌Journal of Chemical Physics, 145, 034902 (2016)に出版されました。**

界面活性剤を含む油相中,直流定電場下で高分子ミクロ粒子が周期的に公転運動することを見出した(Fig. 1).この運動では1) 電極の直交鉛直方向にずれた位置で二つの渦が同時に起こる2) 油相中の界面活性剤の種類を変える(アニオン性・カチオン性)ことによって公転運動が反転する(Fig. 2) という興味深い特徴がみられた. 回転運動のメカニズムとして,油相中にnmサイズの逆ミセルとして存在している界面活性剤が直流電場を負荷することで電極間に二つのロール状の対流運動を引き起こし,その結果,高分子ミクロ粒子が公転運動していると推定。理論モデルによるシミュレーションにより、メカニズムの妥当性を検証した。

FIG. 1. Self-revolution of plastic particles. (a) Initial condition at t = 0 s from when DC voltage was applied. (b) Overlap of snapshots every 0.53 s. Multiple polyethylene particles with radii of r = 50 – 175µm rotate in the oil phase with an anionic surfactant at V = 170 V. FIG. 2. (a-1, b): Angular velocity and angular acceleration depending on the angular position of the particle in the presence of an anionic surfactant (a-1), or a cationic surfactant (b). (a-2): The blue solid line is the velocity and the red dotted line is the acceleration. Videos of these experiments are shown in the Supplemental Materials.14 The radius of rotation in both the anionic and cationic surfactants depends on the initial position of a particle. Particle size: d=175 µm. Applied voltage: V =170 V and 180 V for (a) and (b), respectively.

 

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ゲルや固体基盤を用いない安定な細胞接着の構築:高分子混雑環境下でのレーザーを用いた非侵襲手法

**橋本君(2015年度修士修了)が筆頭著者の論文が、国際誌 Chem. Phys. Lett., 655-656, 11-16 (2016)に出版されました。**

従来の細胞生物学では必要不可欠とされていたゲルなどの固体基盤を用いることなく3次元細胞集合体を安定に構築することに成功した(Fig.1)。高分子溶液中の任意の細胞をレーザーピンセット技術により、同溶液中の他の細胞の下へと非接触で搬送し、数分間放置すると、高分子が存在しない環境でもその接着を維持するという事が確認された。本研究では、この細胞接着のメカニズムについて接着面の細胞膜上の物質の自発的な転移の観点から考える。


 

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Fig.1. Optical construction of a pyramidal assembly. The focal point of the laser is marked by the red ‘x’.

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ガス刺激により運動する液滴:正と負の走化性

**作田 浩輝 君(M2)が筆頭著者の論文が国際誌Applied Physics Letters, 108, 203703 (2016)に出版されました。**

生物が示す走化性に注目して、ガスに対して同様の振る舞いを見せる液滴系を発見した。酸性であるオレイン酸のcmサイズの液滴に塩基性のアンモニアをガス刺激として与えると液滴はガス刺激から逃げる方向に運動した(負の走化性; Fig. 1)。オレイン酸とアンモニアの間で生じる酸塩基反応でオレイン酸がイオン化されることで界面活性を示し、界面張力が場所特異的に変化することで生じるマランゴニ流により運動が誘起されていると考えられる。また、塩基性のアニリン液滴と酸性の塩酸ガスによる系において液滴はガスに引き付けられる方向に運動した(正の走化性; Fig. 2)。生物の走化性を模倣するモデル系としてガス刺激を感知して運動する液滴が明らかとなった。

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Fig. 1 Negative chemotactic behavior of an oleic acid droplet floating on an aqueous solution against NH3 vapor. (a) Snapshots of an oleic acid droplet moving away from ammonia vapor. (b) Spatio-temporal diagram of droplet motion, where x=0 corresponds to the center of the droplet at the initial position. Fig. 2 Positive chemotactic behavior of an aniline droplet vs. HCl vapor. Superimposed image of the aniline droplet moving toward the HCl vapor

 

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DNA高次構造転移に対する多価カチオン間の拮抗作用

**頓宮さん(2015年度修士終了)が筆頭著者の論文が国際誌 Journal of Chemical Physics , 144, 205101 (2016)に出版されました。**

蛍光顕微鏡によるDNA一分子観察の方法論を用い、ゲノムサイズDNA (T4 DNA 166 kbp)の高次構造変化を観察し、2価と3価のカチオンは、溶液中に単独で存在する場合は、DNAを凝縮させるように働くが、2価と3価が共存する場合は、お互いの寄与が競合し、DNAの凝縮を阻害することを明らかにした(Fig. 1)。また、本研究において、この多価カチオンによる競合効果について、対イオン凝縮理論に系全体の並進エントロピー利得を考慮した物理モデルを提案し(Fig. 2)、実験データの多価カチオン濃度依存性を再現できることを示した。

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エタノール濃度変化が引き起こすDNAの凝縮・脱凝縮二段階転移

**織田君(2015年度修士終了)が筆頭著者の論文が、国際誌 ChemPhysChem 17, 471–473, 2016に出版されました。**

research_theme03DNAの高次構造に着目し、蛍光顕微鏡を用いた一分子観測法によって、エタノール環境下におけDNA一分子の高次構造転移メカニズムについて、以下のことを明らかにした。①エタノール濃度を上げていくと、エタノール濃度が60 (v/v)%のときCoil状態から折り畳まれglobule転移し、さらに濃度を上げた80 (v/v)%の混合溶液になると、再溶解しCoil状態に転移するといった二段階転移を引き起こすことが明らかになった。②DNAの高次構造と二次構造の転移には、Coil-Globule-Coilといった二段階転移と、二次構造のB→C→A-form転移と関連性があることを示せた。③脱凝縮現象の要因として、80 (v/v)%エタノール/水内で水分子の小クラスターを形成し、そこにDNAの対イオンがクラスターに遊離し、再溶解を引き起こす可能性を見いだせた。④エタノール沈殿が60-70 (v/v)%において最適であるのは、一分子レベルで見た時、70 (v/v)%以上の濃度で脱凝縮転移を引き起こしていることが原因であるということが示せた。


 

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アスコルビン酸によるDNA二重鎖切断の保護作用:光励起・ガンマ線・超音波の比較

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**馬君(D1)が筆頭著者の論文が、国際誌 Chem. Phys. Lett., 638, 205–209 (2015)に出版されました。**

長鎖DNAの一分子観察の実験手法を応用して、二本鎖切断の反応速度の解析を行った。光照射によって発生した活性酸素によるDNA切断は、一本鎖切断が2ステップで引き起こされることにより起こることを明らかにした。γ線による損傷では,一段階の反応でおこっており,かつ,切断反応には閾値が存在しないことが分かった。一方、超音波によるDNA切断に対して、アスコルビン酸は顕著な保護作用を示すことは無かった。


 

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多様な構造のポリアミン:固相合成とDNAとの相互作用

**村松君(2015年度修士修了)が筆頭著者の論文が、国際誌 Journal of Chemical Physics, 145, 235103 (2016)に出版されました。**

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基本骨格が同じで異なる構造を持つ、直鎖型、部分的に制限のある、分岐型、環状の四種類のポリアミンをペプチド化学に基づく多彩な固相アプローチにより精製し、DNA二重螺旋の安定性や構造への影響を調査した。それぞれのポリアミンは異なる活性を示し、骨格構造の重要性が示された。興味深いことに、各ポリアミンのDNA折り畳み転移への活性は、円偏光二色性や融解温度に対する活性とは異なる挙動を呈し、これらのポリアミンがDNAの二次構造や高次構造に対して独特な影響を与えることが示された。

 


 

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Lamellar/Disorder Phase Transition in a Mixture of Water/2,6-Dimethylpyridine/Antagonistic Salty

溶液中のイオンの振舞いを理解することは、物理化学の基礎として必要なだけでなく、産業利用(生産プロセスにおける溶解と析出、あるいは電池電極 表面での電解質溶液の振舞いなど)や生命科学(細胞内外の情報伝達やタンパク質、DNAの折畳みなど)に活用する上でも重要な課題である。その中 で我々はこれまでに、溶媒と塩(イオン)との相互作用(溶媒和効果)が、ソフトマターの秩序形成に与える影響に着目して研究を進めている。

例えば最近、水と有機溶媒の混合溶液に拮抗的なイオン(親水性の陽イオンと疎水性の陰イオン)からなる塩を加えた場合に、液体が約1nm ~ 10μmを特徴的な大きさとする階層的構造を形成することを発見した。図はその1例であり、水と有機溶媒である3-メチルピリジンの混合溶液に拮抗的な塩であるナトリウムテトラフェニルホウ素 (NaBPh4) を加えた系を用いて顕微鏡観察を行った結果である。323K以上の高温では溶液は均一に混合しているのに対し、318K以下の低温側では直径20μmの単 分散のドロップレットが自発的に形成される。また、偏光顕微鏡写真では、「マルタ十字」のパターンが見られることから、界面活性剤水溶液や高分子 溶液で見られる多重膜ベシクル構造が形成されていることが分かる。更に小角中性子散乱実験の結果から、この溶液では有機溶媒である3-メチルピリ ジンが厚さ数nmの膜として振舞い、それが20nm程度の間隔で積層して巨大な多重膜ベシクル構造を形成していることが分かった。

このように、高分子や界面活性剤を含まないシンプルな溶液系においても、ナノ~マイクロメートルスケールの階層構造が自発的に形成され得ることが 明らかになった。[1,2,3]

[1] K. Sadakane, H. Endo, K. Nishida, H. Seto, “Lamellar/Disorder Phase Transition in a Mixture of Water/2,6-Dimethylpyridine/Antagonistic Salty”, Journal of Solution Chemistry, 43, 1722-1731 (2014).

[2] K. Sadakane, M. Nagao, H. Endo, H. Seto, “Membrane formation by preferential solvation of ions in mixture of water, 3-methylpyridine, and sodium tetraphenylborate”, The Journal of Chemical Physics, 139, 234905 (2013).

[3] K. Sadakane, A. Onuki, K. Nishida, S. Koizumi and H. Seto, “Multilamellar Structures Induced by Hydrophilic and Hydrophobic Ions Added to a Binary Mixture of D2O and 3-Methylpyridine”, Phys. Rev.Lett., 103, pp. 167803(1)-(4) (2009).

Fig1

 

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ブラウン運動中のゲノムDNAに関する高次構造の経時変化:環状DNAと線状DNAの差

細胞内のゲノムDNAは全長がmm-cm程度と極めて長鎖の高分子であるが、長鎖になることによる分子の特質については不明な点が多く残されている。本研究では、ゲノムサイズDNAの揺らぎを一分子計測の手法により定量的に調べた結果、環状DNAではゆらぎの緩和時間が線状DNAに比べて一桁程度短くなることを見出した明らかにした。また、計算機シミュレーションによってこのような傾向が再現された。スケーリング理論を適用することにより、これは、長鎖DNAに現れる特質であることを解明した。

  1. Iwaki, T. Ishido, L\K. Hirano, A. A. Lazutin, V. V. Vashievskaya, T. Kenmotsu, K. Yoshikawa, “Marked difference in conformational fluctuation between giant DNA molecules in circular and linear forms”, J. Chem. Phys. Vol. 142, Issue 14, 145101, 2015

Fig2

 

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