アルコールの摂取は多くの疾患との関連が指摘されており、遺伝子の活性を変化させている可能性もあるが、その詳細は不明であった。本研究では、アルコールが転写-翻訳(TX-TL)および翻訳(TL)に及ぼす影響について無細胞遺伝子発現系を用いて検討した。その結果、TX-TL反応において、エタノールおよび2-プロパノールは遺伝子発現の促進・阻害の二相性効果を示す一方で、1-プロパノールは抑制効果のみを示すことが明らかとなった。また、アルコールがDNA分子の動的性質に及ぼす影響について、揺動散逸定理に基づく長鎖DNA一分子の鎖内揺らぎについて定量的解析を行った結果、1-プロパノールは他のアルコール類よりもDNA分子のバネ定数と減衰定数を著しく増加させることが分かった。このように、本研究では遺伝子発現に対するアルコール異性体の促進・抑制作用が、DNA分子の粘弾性特性の変化と相関していることを明らかにした。このようにDNA分子の粘弾性とその生物活性が関連していることを示すような研究はこれまでにはなされておらず、新規性の高い研究となっている。これらをまとめた論文が国際誌Polymersより出版された。藤野君(M2)が第一著者、西尾博士(本研究室およびドレスデン工科大学博士研究員)が第二著者、藤岡君(2021年度卒業生)が第三著者。

Activation/Inhibition of Gene Expression Caused by Alcohols: Relationship with the Viscoelastic Property of a DNA Molecule, K. Fujino, T, Nishio, K. Fujioka, Y. Yoshikawa, T. Kenmotsu, K. Yoshikawa, Polymers. 15, 149(2023). DOI.org/10.3390/polym15010149