ダウノマイシン(DM)は、過去半世紀以上にわたって白血病やリンパ腫などのがん治療に広く使用されてきているアントラサイクリン系抗生物質だが、DNA高次構造や遺伝子発現活性への直接的な効果は不明であった。本研究では、ポリアミン(スペルミン)によって、遺伝子発現活性を様々に制御した条件下で、無細胞系遺伝子発現に対するDMの作用を調べた。その結果、低濃度DM存在下での弱い発現促進と、DM濃度依存的に引き起こされる発現の抑制という二相性の効果が観察された。さらに、原子間力顕微鏡により、ゲノムサイズDNAの高次構造に対するDMの作用を調べたところ、DM低濃度ではDNAの伸張を引き起こし、一方、高濃度ではスペルミンによって形成されたFlower-like structure (このDNA高次構造が遺伝子発現を促進することを報告してきている)を破壊することが明らかとなった。DMが引き起こすDNA高次構造あるいは二重鎖切断によって遺伝子発現活性が影響を受けるという本研究成果は、従来の研究では知られることの無かった、DMのDNAへの直接的な作用を明らかにした新規性の高いものとなっている。これらをまとめた論文が国際誌International Journal of Molecular Sciencesより出版された。西尾博士(本研究室およびドレスデン工科大学博士研究員)が第一著者、島田君(2021年度修士卒)が第二著者。ドレスデン工科大学のSchiessel教授との共同研究。