生体内に存在するゲノムDNAは長さ数十μmから数cmに及ぶ巨大な分子であり、細胞周期など細胞内外の環境に応じて著しくその高次構造を変化させている。本研究では、高分子の100 kbpを超える長鎖DNAをPEGとDEXの高分子水溶液に加え、溶液を攪拌して水/水の相分離が起こると、細胞サイズの液滴にDNAが取り込まれた構造が自発的に生成するといった現象について研究を進めた(なお、高分子溶液をDNAやactinなどの生体高分子存在下、攪拌すると、細胞様の構造が自己組織化により生じることは、私たちの研究室から、論文として発表してきている:中谷ら、ChemBioChem(2018); 作田ら、ChemBiocChem(2020), など)。3価の生体ポリアミンであるスペルミジン(SPD)を添加することで、液滴内部でDNAの折り畳み転移を引き起こさせ、それを一分子鎖レベルで観察することに成功した。その結果、coil状態や、ゆるく凝縮したDNAは液滴内を自由にブラウン運動する一方で、タイトに凝縮したDNAは液滴の界面に局在する傾向があることを明らかにした。これらの成果をまとめた論文が国際誌PLOS ONEから出版された。西尾君(D3)が第一著者。

Higher-Order Structure of DNA Determines its Positioning in Cell-Size Droplets under Crowded Conditions, Takashi Nishio, Yuko Yoshikawa, Kenichi Yoshikawa, Plos One (2021).