生物学的ポリアミンである3価のスペルミジン(SPD[3+])や2価のプトレシン(PUT[2+])は、細胞分裂と増殖を促進する有機化合物である。それらは正に帯電しており、細胞環境において負に帯電したDNAと静電的に相互作用する。本研究では、PUT[2+]とSPD[3+]が共存する環境下において、長鎖DNAの高次構造変化が遺伝子発現活性にどのように寄与するかを調査した。PUT[2+]はSPD[3+]と比較して約5倍の遺伝子発現促進効果を示し、長鎖DNAに”網目構造”を形成することを発見した。また、PUT[2+]濃度増加に伴いDNA鎖に捩れ構造を形成することも発見した。SPD[3+]添加により形成された長鎖DNAの平行配列構造はPUT[2+]の作用により網目構造へと転移した。さらに、SPD[3+]による遺伝子発現最大促進濃度帯(0.3, 0.5mM)にPUT[2+]を作用させると更なる遺伝子発現促進効果を示した。対して、SPD[3+]による遺伝子発現阻害濃度帯(1.0mM≦)ではPUT[2+]を作用させても発現活性は促進されず阻害されたままであった。カチオンの共存効果に関しては、デバイ・ヒュッケル理論の枠組みでは相加的な寄与が予想されるが、本研究結果から生体高分子であるDNA高次構造および遺伝子発現活性に関して、相加的のみならず拮抗的な作用を示すことも明らかにした。これらの知見が生命科学分野における新規的かつ基礎的な理解をもたらすことが期待される。これらをまとめた論文が国際誌European Biophysics JournalにAcceptされた。小川君(現在は同志社博士後期課程1年)が第一著者、西尾博士(現在は産総研の研究員;2021年度博士後期課程修了)が第二著者。