研究内容

 

光ピンセット技術による溶液中で安定した3次元の細胞組織体を構築する技術を開発

**光ピンセット技術に関する論文が、ビデオジャーナルの国際誌: Journal of Visualized Experimentsで発表されました。。**

これまで我々は、光ピンセット技術と高分子混雑効果を用いて、溶液中で安定した3次元の細胞組織体を構築する技術を開発してきました。本技術は、合成ゲルなどの人工的な足場を用いないことと、数分間で細胞10個程度の組織体を簡単に構築できることが特徴で、将来再生医療や組織工学の分野で活用されることが期待できます。今回我々は、一連のプロトコルを詳しくまとめて、オンラインビデオジャーナルの国際誌: Journal of Visualized Experimentsに発表しました。第1著者山崎君(M2)・谷口博士(Polish Academy of Sciences)、第2著者辻君(2018年3月本学修士修了)らとの共同研究。

 

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光駆動ポンプ:レーザ照射に誘起されるミクロ相分離を用いた一方向流の生成

**レーザ照射に誘起されるミクロ相分離を用いた光駆動ポンプに関する論文が、国際誌J.Phys.Che,.Lett., 9, 2299-2304 (2018)に出版されました。**

相分離点近傍で一様に混合したトリエチルアミン(TEA)-水の溶液に対して赤外レーザを照射したときにレーザ照射点から微小液滴が湧き出ることをわれわれの研究グループではこれまで報告してきている。本研究では、レーザを照射するチャンバーに空間的な非対称性を導入すること(図左側)により流体がチャンバーの深い方向に向かって一方向に流れること(図中心)を見出した。また、流体力学的なモデル方程式により、実験結果を再現するシムレーション結果を得ている。mm以下のスケールで、動作可能なマイクロポンプとして、医療分野やマイクロデバイス分野への応用展開が期待される。

Fig. Optical fluid pump by using laser. The droplets were segregated from homogeneous solution by the laser irradiation, and emerged droplets generated unidirectional motion caused by the asymmetry of geometry. (Left) Schematic illustration of the experimental setup. (Center) The flow profile from experimental result. (Right) The flow profile from numerical simulation.

 

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超好熱菌由来分岐型ポリアミンによる温度依存的DNA構造転移

**西尾君(M2)らによる、超好熱菌由来の分岐型ポリアミンによる高温条件下でのDNA構造転移に関する論文が、国際誌ChemPhysChemより出版されました。また、本論文は掲載号におけるBest Paperに選出され、Front Coverを飾りました。**

細胞分裂や遺伝子発現など、生体が営む重要な現象にポリアミンが関与していることは現象的には明らかになってきているが、そのメカニズムには不明な点が多く残されている。近年、80-90℃程度の高温環境で生息する超好熱菌は、分岐型ポリアミンを細胞内で作り出していることが近年明らかになった。この分岐型の構造は、通常の細胞には見られない分子構造であり、それが高温条件下での生存に深く関わっているものと推測される。この様な分岐型ポリアミンが、温度依存的にDNA構造を変化させ、80℃の高温条件下で、数十ナノメータのオーダーのマルチループを形成することを明らかにした。超好熱菌は真核生物に進化する以前の原始生物に最も近い生物であるとされ、高温条件における遺伝機能追究することは、生命の起源を知るうえでも大きな手がかりになるものと期待される。

 

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水/水分離細胞サイズ液滴におけるDNA・アクチンの局在:細胞様構造の自発生成

**水/水分離細胞サイズ液滴におけるDNA・アクチンの局在に関する論文が、国際誌ChemBioChem, 19, 1370-1374 (2018).に出版されました。**

生物の細胞内部はDNAやRNA、タンパク質をはじめとした生体高分子で混雑した環境にある。このような環境下で生物は様々な機能、構造をコントロールしている。本論文では高分子の混雑する中で生じる、マクロな相分離、いわゆる水性2相分配を改良して相分離曲線近傍でPolyethylene glycol (PEG)の溶液中に生じるDextranの細胞サイズの液滴にDNAやアクチンなどの高分子が局在することを明らかにした。長鎖(49kbp)のλDNAや重合度の高いF-アクチンは液滴の内部に局在することに対して、短鎖(数10bp)程度のoligomer DNAや重合度の低いG-アクチンは液滴の内外に均一に局在することを見出した。また、F-アクチンは高重合度のbundle状態になると液滴の界面に寄り、細胞骨格様の骨格構造を液滴に対して作り出すことも明らかにした。さらに、λDNAとF-アクチンが共存する場合には、DNAが液滴の中央付近に配向するF-アクチンに押し出されるように液滴内で分離することも見出している。本発見は、細胞小器官などにおける高分子の混雑による相分離の役割の解明や、新たな細胞モデルとして期待が持たれる。

Fig. Specific localization of actin and DNA. Actin and DNA exhibited specific localization in Cell-sized Aqueous/aqueous Micro Droplets (CAMD) that were spontaneously formed through water/water micro phase-segregation under crowding conditions with coexisting polymers.

 

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光により駆動するcmサイズ金属シート -振り子運動と回転運動-

**原田君(M2)、小吉君(2017年MC修了)、作田君(D1)が第1,2,3著者の論文が、国際誌 J. Phys. Chem. B, 122, 2747-2752 (2018) に出版されました。DOI: 10.1021/acs.jpcc.7b11123**

水面に浮遊するcmサイズのAl箔に対して、定常レーザを照射することで、Al箔の連続的な運動制御を可能にした。レーザを照射した際の発熱に伴う界面張力の場所特異的な変化に着目し、Al箔をハンマー状に作成した場合、Al箔の端部がガラス面と接着することで周期的な振り子運動を示した(Fig.1上部)。この周期的な振り子運動は、レーザ出力の増加に伴って、運動のスイッチングが生じることを明らかにした。また、Al箔とオレイン酸の油滴との複合体を作成することで連続的な回転運動を示した。更に、Al箔に対して回転非対称性を与えたことで選択的な回転運動を実現した(Fig.1下部)。

Fig.1: Motion control of the Al sheet by CW laser. Top: pendular motion. Bottom: Rotary motion. The focal point of the laser is marked by the ‘X’.


 

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混雑環境下で非平衡ゆらぎが創り出す秩序構造

**尾田君(2016年度修士修了)が筆頭著者の論文が、国際誌Physica D, 336, 39–46 (2016)に出版されました。**

生命体は非平衡ゆらぎにより、自らの生命を創り出し、その活動を維持している。本研究では、「ゆらぎ」と「秩序構造」に着目し、サイズの異なる粒子の集団に外部から振動をあたえるといった実験を行った。その結果、粒子集団が空間的に閉じ込められた環境下で、粒子のサイズに応じて相分離して、閉鎖空間内に局在化することを発見した。空間内の混雑度が低い環境では大きな粒子が空間外部に、混雑度が高い場合には大きな粒子が空間内部に局在する(Fig)。排除体積効果を取り込むことにより並進運動の自由度を求めて、系のエントロピーを理論的に計算した。その結果、実験で得られた粒子の局在条件を理論的に説明することが可能であることを示した。

Fig.1: Schematic representations of the experimental system with bird view in (a) and side view in (b); typical snapshots at 0 and 540 seconds (left panel) and the real-time trajectories of the large sphere (right panel) for two distinct packing fractions η = 0.1(NL = 1 and NS = 29) in (c) and 0.6(NL = 1 and NS = 229) in (d), where dL =10mm, dS =3mm and D = 60mm. The scale bar is10mm. Note that the dotted circles in the trajectory plots indicate the outermost boundary which can be reached by the center of mass of a large sphere within the cylindrical disk.

 

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DNA直流電圧のもとでのプラスチック粒子の公転運動

**直流電圧のもとでのプラスチック粒子の公転運動に関する論文が、国際誌Journal of Chemical Physics, 145, 034902 (2016)に出版されました。**

界面活性剤を含む油相中,直流定電場下で高分子ミクロ粒子が周期的に公転運動することを見出した(Fig. 1).この運動では1) 電極の直交鉛直方向にずれた位置で二つの渦が同時に起こる2) 油相中の界面活性剤の種類を変える(アニオン性・カチオン性)ことによって公転運動が反転する(Fig. 2) という興味深い特徴がみられた. 回転運動のメカニズムとして,油相中にnmサイズの逆ミセルとして存在している界面活性剤が直流電場を負荷することで電極間に二つのロール状の対流運動を引き起こし,その結果,高分子ミクロ粒子が公転運動していると推定。理論モデルによるシミュレーションにより、メカニズムの妥当性を検証した。

FIG. 1. Self-revolution of plastic particles. (a) Initial condition at t = 0 s from when DC voltage was applied. (b) Overlap of snapshots every 0.53 s. Multiple polyethylene particles with radii of r = 50 – 175µm rotate in the oil phase with an anionic surfactant at V = 170 V. FIG. 2. (a-1, b): Angular velocity and angular acceleration depending on the angular position of the particle in the presence of an anionic surfactant (a-1), or a cationic surfactant (b). (a-2): The blue solid line is the velocity and the red dotted line is the acceleration. Videos of these experiments are shown in the Supplemental Materials.14 The radius of rotation in both the anionic and cationic surfactants depends on the initial position of a particle. Particle size: d=175 µm. Applied voltage: V =170 V and 180 V for (a) and (b), respectively.

 

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ゲルや固体基盤を用いない安定な細胞接着の構築:高分子混雑環境下でのレーザーを用いた非侵襲手法

**橋本君(2015年度修士修了)が筆頭著者の論文が、国際誌 Chem. Phys. Lett., 655-656, 11-16 (2016)に出版されました。**

従来の細胞生物学では必要不可欠とされていたゲルなどの固体基盤を用いることなく3次元細胞集合体を安定に構築することに成功した(Fig.1)。高分子溶液中の任意の細胞をレーザーピンセット技術により、同溶液中の他の細胞の下へと非接触で搬送し、数分間放置すると、高分子が存在しない環境でもその接着を維持するという事が確認された。本研究では、この細胞接着のメカニズムについて接着面の細胞膜上の物質の自発的な転移の観点から考える。

 

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Fig.1. Optical construction of a pyramidal assembly. The focal point of the laser is marked by the red ‘x’.

 

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ガス刺激により運動する液滴:正と負の走化性

**作田 浩輝 君(M2)が筆頭著者の論文が国際誌Applied Physics Letters, 108, 203703 (2016)に出版されました。**

生物が示す走化性に注目して、ガスに対して同様の振る舞いを見せる液滴系を発見した。酸性であるオレイン酸のcmサイズの液滴に塩基性のアンモニアをガス刺激として与えると液滴はガス刺激から逃げる方向に運動した(負の走化性; Fig. 1)。オレイン酸とアンモニアの間で生じる酸塩基反応でオレイン酸がイオン化されることで界面活性を示し、界面張力が場所特異的に変化することで生じるマランゴニ流により運動が誘起されていると考えられる。また、塩基性のアニリン液滴と酸性の塩酸ガスによる系において液滴はガスに引き付けられる方向に運動した(正の走化性; Fig. 2)。生物の走化性を模倣するモデル系としてガス刺激を感知して運動する液滴が明らかとなった。

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Fig. 1 Negative chemotactic behavior of an oleic acid droplet floating on an aqueous solution against NH3 vapor. (a) Snapshots of an oleic acid droplet moving away from ammonia vapor. (b) Spatio-temporal diagram of droplet motion, where x=0 corresponds to the center of the droplet at the initial position. Fig. 2 Positive chemotactic behavior of an aniline droplet vs. HCl vapor. Superimposed image of the aniline droplet moving toward the HCl vapor

 

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DNA高次構造転移に対する多価カチオン間の拮抗作用

**頓宮さん(2015年度修士終了)が筆頭著者の論文が国際誌 Journal of Chemical Physics , 144, 205101 (2016)に出版されました。**

蛍光顕微鏡によるDNA一分子観察の方法論を用い、ゲノムサイズDNA (T4 DNA 166 kbp)の高次構造変化を観察し、2価と3価のカチオンは、溶液中に単独で存在する場合は、DNAを凝縮させるように働くが、2価と3価が共存する場合は、お互いの寄与が競合し、DNAの凝縮を阻害することを明らかにした(Fig. 1)。また、本研究において、この多価カチオンによる競合効果について、対イオン凝縮理論に系全体の並進エントロピー利得を考慮した物理モデルを提案し(Fig. 2)、実験データの多価カチオン濃度依存性を再現できることを示した。

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エタノール濃度変化が引き起こすDNAの凝縮・脱凝縮二段階転移

**織田君(2015年度修士終了)が筆頭著者の論文が、国際誌 ChemPhysChem 17, 471–473, 2016に出版されました。**

research_theme03DNAの高次構造に着目し、蛍光顕微鏡を用いた一分子観測法によって、エタノール環境下におけDNA一分子の高次構造転移メカニズムについて、以下のことを明らかにした。①エタノール濃度を上げていくと、エタノール濃度が60 (v/v)%のときCoil状態から折り畳まれglobule転移し、さらに濃度を上げた80 (v/v)%の混合溶液になると、再溶解しCoil状態に転移するといった二段階転移を引き起こすことが明らかになった。②DNAの高次構造と二次構造の転移には、Coil-Globule-Coilといった二段階転移と、二次構造のB→C→A-form転移と関連性があることを示せた。③脱凝縮現象の要因として、80 (v/v)%エタノール/水内で水分子の小クラスターを形成し、そこにDNAの対イオンがクラスターに遊離し、再溶解を引き起こす可能性を見いだせた。④エタノール沈殿が60-70 (v/v)%において最適であるのは、一分子レベルで見た時、70 (v/v)%以上の濃度で脱凝縮転移を引き起こしていることが原因であるということが示せた。


 

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